2007世界選手権レポ#3


SPを会場で観戦すると、やっぱりFSも見たくなりますね。という訳で、男子FSを。


ブライアン・ジュベール選手#1】
大方の予想通り優勝。FSでは3位だが、SPの点差で逃げ切った。トリノプルシェンコ選手のように、4回転を成功させた後は、安全策を取ったと。計算しているからこそなので、インタビューでは「まだ滑り終わってない選手がいるので、メダルの色は分からない」と言っていたが、ほぼ確信していたろう(結果は、2位の高橋選手に肉薄されたけど)。見てる方はちょっと消化不良といえなくもないが、もれなく今季GPからの完全優勝も付いてくるので、当然の判断でしょう。印象に残ったのは、前大会チャンピオンであるランビエール選手のSPの結果を、非常に冷めた目で見ていた事だ。全力で倒したいと思っていたのに、もはや相手ではなくなっているのを見て、白けたのかそれとも。ともあれ、優勝おめでとうございます。


高橋大輔選手#2】
後半ジャンプミスもなく健闘し、堂々の総合2位。何とこのFSだけなら1位!1試合でメダルも全色揃え、本人も満足気だ。後半怒涛のジャンプラッシュや見るからに疲れそうなステップ(運が悪く、ランダム選出の点でいい方が選ばれてないので、加点はあんまりよくないけど)もこなし、力の限り滑り切った。苦手としていた3Aは、1.57と全要素中最も加点があり、得意なジャンプになったよう。ただ欲を言えば、SPでもうちょっと頑張ってもらいたかったな。ジュベール選手も勝負に出ざるを得ず、メダルの色争いが白熱しただろう。さて、今季のFSはかなりクドかったので、来季はもう少し落ち着いたプログラムを希望する。3つの4回転を入れる計画らしいが、4Fでくるか普通に4Sでくるか楽しみだ。


ステファン・ランビエール選手#3】
プログラムがすごく良い。殆ど滑ってないのに、さすがは元世界チャンピオン、かなりモノにしていて、FSでは1番良かった。後半になる程動きがよくなり、滑った端からそれが練習というか、元へ戻るための階段のように感じた。最後のCCoSpはLv4.の上に、+3をつけているジャッジも多い。確かに彼にしか出来ない、まさに真骨頂のスピンだった。FSで2位も納得。ただ、それでもSPのPCSの出方は異常なので、総合3位は不満かも。却ってケチがついた気すらする。キスクラではやっと選手の顔つきに。まあ、遅いんだけど。来季も現役続行らしいので、ぜひこのFSは持越しして完成させて欲しい。にしても、あの細い体のどこに、4分半滑りきる体力を内蔵しているんだろうか。


トマシュ・ベルネル選手#4】
ジャンプの加点もすごいし、PCSもトップ選手とほぼ互角で、FSのTESは何と1位。去年の織田選手以上の劇的な成長ぶり。見てて気持ちいいぐらい。持続できるかどうか、来年が勝負の年ですな。この選手が総合3位というのが、順当な気がする。にしても、彼の公式サイトは異常に更新早かった。毎年SPとFSを順番に変えているらしく、この方式でいくと来季はSP据え置きのFS変更だが、SPも衣装だけは変えて欲しい気がする。チェコは長らく強い選手を輩出できなかったので、恐らく同国スケ連からのバックアップも強力なものになるだろうし。男子は欧州勢も頑張ってるなあ。北米がちと弱いが、女子ほど偏りがなくていい。


エヴァン・ライサチェク選手#5】
またFSで追い上げかと思いきや、世界選手権には泥鰌がいなかったようだ。彼を含め、今回キャロル爺のお弟子さんは今ひとつ。Loがダブルになったり、3連続の3つ目が抜けたりとミスも幾つかあるが、何より本人がイマイチ乗れなかった事が原因だろう。全米にピークを持ってきたので、四大陸、そしてこの世界選手権と順調に調子を下げる結果に。しかし全米チャンピオンが5位か。3枠あったので、もう少しピークを外した方が良かったようにも思うが、そうするとブラッドレー選手が優勝・・・?FSの冒頭が全米から変わったが、どっちにしても変だと思う。”俺様”ぶりを公式練習でもいかんなく発揮していたようだが、もうちょっと愛想よくした方が演技もよくなると思うぞ。


ジェフリー・バトル選手#6】
衣装を四大陸までと変えてきた。前のは微妙だった上に、曲と合わないなと思っていたので、絶対今回の方がいい。SPを見て、4Tと3Aは転ぶだろうなと予想していたら、残念な事に見事的中した。せめて4Tは回りきってから転倒して欲しかった。転び方に文句付けるなんて変だけど。今回4Tを入れるなど、前半に構成変更を加えて難度を上げたのだが、却ってミスを招き点が低くなる結果に。さすがに3度も転倒したせいで、単純に点が低くなるだけでなく、プログラムの流れも乱れたまま終わってしまった。スピンのLv.でもとりこぼしが多い。FSの曲は、カナダ国内で高い評価を受けた、映画『アララトの聖母』のサウンドトラックから来ている。音楽を聞いてすぐ分かるとおり中東、正確にはアルメニアを扱った作品だ。日本では多分単館系の扱い。内容が例の虐殺問題を背景としているので、あらすじを読んだだけでも、はっきりいって重い。難しいものを選ぶなあというのが感想だが、さすがに選曲ミスかと。国外での大会なので、相当に曲か映画のいずれかが有名でないと、理解の範疇を超える。何故あんなに全カナダで受けてたのかは分かったけど。3Aの安定が来季の課題になるが、体が細いので、まずオフトレが必要だろう。総合6位で前回と同位だが、メイビー選手が14位、サンデュ選手が16位であるため、来季カナダは2枠となった。中東という方向はいいので、もうちょっとメジャーなので再トライして欲しい。


織田信成選手#7】
殿、新調した鎧をまとってのご出陣。前半はウーンという感じだが、後半は本人もノってきていた。FS丸ごと変更とはすごい決断だけど、どうやったら1つでも順位を上げられるのか、本当に悩んだのでしょう。未完成さはいかんともしがたいが、ゴボウ抜きして総合7位。SPからこの順位まで上げるのは、並の選手には無理なので、去年の躍進がその年限りのものでない事を世界レベルで証明した形に。ただ、またも規定違反し、コンボが1つ丸まるノーカウントへ。難波のザヤッキーと命名しますぞ(今回ザヤックとは違うが)?とっさに構成を変えたからなんだけど、「これを失敗したらこうする」とか、予めパターンを作ろうよ。あと、4Lzなんて完成するんだろうか。来季の課題は体をしっかり作って、ジュニア臭さを完全に消す事にあると思う。いずれにせよ、日本で誰より喜んだのは小塚選手らだろう。日本人男子シングル3枠って、初めてじゃないだろうか。


ジョニー・ウィアー選手#8】
いくらなんでもFS10位とは・・・。総合で何とか入賞だけど、うーん。得意の3Aで単発の方が決まらなかった事、コンボが2つしかない事が痛い。あと、どう考えても1度も会心を出せなかったこのプログラムにも問題がある。アニシナ姉さーん(仏の元アイスダンス選手、FSの振付師)!何とか来季3枠だけど、今回アメリカ男子選手は一人も台に乗らないという結果に。次の世選放映権はまだ買い手が付かないし、資金援助など環境面にも影響が出るのはないかと、ちと心配。本人も来季頑張らないと、世界選手権出場も危ういのでは。頑張れジョニ子!今やアメリカ選手で、(何故か)女子も含め、優雅なスケータは君しかいないのだから。


【クリストファー・ベルントソン選手#9】
FSも地上波放送されなかったのだが、会心の出来だったらしく、会場も多いに盛り上がったとか。3A+3T、3Lz+2T、そして3Aと次々に成功して波にのったのでしょうね。何故放送しないフジ!と思い立って、某所から少々荒いが映像を調達。どのジャンプも流れがあまりなく、よく耐えたなーという感じだが、決まる度にボルテージが高まっていったのはよく分かった。来年は自国開催なので、活躍を期待!スケーティングがよろしくないので、基礎をもうちょっと。
#来季は何とかJ plus入りたいなー。


【セルゲイ・ダビドフ選手#10】
28才学生頑張る。欧州選手権で4位になった波を、持ってくることは出来なかった。転倒もなく無難に滑っているのだが、プロトコルを見ると、やや女子っぽい。4回転がないので、組み合わせを試行錯誤して、可能な限り点を上げるようにしないとキツイ。あと、男子版ポイキオというか、地味なのも改善したい。同国出身の、今を最もトキメクあの振付師に頼んでみる?でも、この年で本当によく頑張っていると思う。引退したらやだなあ。


【アルヴァン・プレオベール選手#11】
昨季8位で、飛躍を目指し、コーチから何から総入れ替えしたのだけど。この結果についてどう思ってるんだろうか。仏2番手の意地にかけて入賞はしたかった。織田選手はノリを重視してクラシックから変更したが、来季どうするかな。ジャッジの評が分かれるプログラムだしね。似たような事をする選手の多い中、好きなんだけどな。何とか2枠は死守したが、来季全仏は大変だぞう。そろそろポン太(ヤニック・ポンセロ選手)も浮上してくるかもしれないし。しかし、趣味が音楽、スポーツ、映画って・・・趣味のない人がいいそうな地味な回答だ(しかも、スポーツって何?)。


今季の主力と思われていた選手らが、軒並み来季では国内争いにより重点をおかざるを得ない状況となった。この状況を見るに、日本男子シングルにとって来季ほどのチャンスはないので、目の色を変えて3番手以降の選手は頑張って欲しいですね。