2007世界選手権レポ#4


女子はSPとFSをまとめて。概ね上位陣はSPで良い結果を出したが、やはり2つ揃えられず、FSでは転倒大会への参加者が多かったですね。その中で唯一ミスのなかった、安藤選手が優勝しました。また、逆にFSで良い結果を出した浅田選手が2位、両方を程ほどに揃えた中野選手は前回と同じ5位に。皆さん、おめでとうございます。ホスト国にして、最高の結果を出した国にもなりました(何だかスケ連幹部の祝辞みたい)。


安藤美姫選手#1 SP(2)FS(2)】
今大会唯一SPとFSでミスなし・両方PB更新、さらに今季全SPミスなし・今回を含む2試合で5種の3回転を入れて成功と国際大会での190点越え、と女王にならない方が不思議なシーズンに。前季とは完全に別人なり、2代目スルツカヤの呼び声高いのも納得。来季はスケーティング、スパイラル、そしてより魅力ある演技の追求に取り組んだらいいのではないかと思ったら、本格的に4S投入か。本人の気性とは裏腹に、最もムラなく何でも高いレベルで出来る選手なので、体調さえ崩さなければ当面台落ちしないと思うが?スピン中の自然な姿勢変化も、シズニー選手や中野選手を抜いて、一番だと思う(安定姿勢に入れば、この2選手の方が上だと思うが)。
男子シングル優勝者と同じく、FSは力を抑えてミスなしを狙った作戦が功を奏した。そのため、ペース配分よくコントロールされたプログラムとなっている。とはいえ、それはあくまで当人比の話だ。3Aのある浅田選手に比べると一見地味だが、5種の3回転に加えてSPに引き続いて3Lz+3Loと、他の選手に真似のできない超高水準でウェルバランスのとれた内容だからだ。力を抑えてこの内容というのが凄い。4Sはもちろん、ビールマンもなしに金を取れる選手である事を、強烈にアピールできた大会に。これでスピードがもう少しあればなぁとは思うけど。SPでは2番目に良かったが、これまでで最も”勇敢だけど、同時に蠱惑的でもあるシェヘラザード姫”になっていて、この選手に良くあったプログラムだと感じた。来季は日本人初の連覇が目標となるが、メジャー大会優勝コンプリートを目指してGPF金を狙うのもいいかもしれない。さて新女王相手に、他の有力選手がどういった作戦で対向してくるのか、来季が非常に楽しみだ。


浅田真央選手#2 SP(5)FS(1)】
無敵を誇ってきたSPだったが、ここへ来てついに陥落。試合を重ねるごとに音楽と離れていった感があったが、今回はバラバラになっていたような。「勝ちたい」という気持ちが強く出すぎたためか。手の動かし方など、綺麗に見せるための工夫をずっと試みていたのはいいのだけど。ジャンプばかり目が行きがちだが、滑走距離のあるグラつきのないスパイラルこそ特筆に値すると思う。終了直後もすぐには漕ぐ必要がない程、エッジに乗り切っている。フィニッシュのポーズのまま、目を見開いた表情が最も印象的だった。FSは気合全快で追い上げ、総合2位、FSでは何と最高記録で1位に。会場を大いに沸かせての、初出場にして銀と大奮闘だった。ただプロトコルを見ると、手放しでは喜べない部分もある。本人も「やった!」と思ったらしきブラケットから入る3Aに対し、+どころか-評価を付けられた。これにより得た点は6.5。加点の良い2Aが5.2なので、リスクや体力を考えると旨みが少ない。この余裕のないプログラムを、こなせるだけで十分スゴイけど、やっぱりFSの選曲は問題があったと思う。来季はステップからの3AをSPに移動させ、FSへは代わりに3A+3Tと4Loを入れたいようだ。スケーティングも要素の加点も優秀な選手なのに、勝てる試合をわざわざ逃す事になるかもしれない。ノービス時代から圧倒差で勝つことに慣れているためか、どうもパワー押ししたい欲が見え隠れする。長くは続かないんじゃないだろうか。実際、演技終了時の汗は普通ではなかった。


キム・ユナ選手#3 SP(1)FS(4)】
SPは文句なく、ダントツで良かった。3F+3Tへの加点2も、SPについては納得できる。GPFから変えてきた衣装やメイクも曲とよく合い、スパイラル中の目と手の動きによる効果を大きくしている。どの部分を切り取っても良いし、全体の演技としても完成されていて、繰り返しみたい傑作品に。出席簿でも持って廊下をトボトボ歩いてそうな感じが、演技に入った途端、ガラっと変わるのが何よりいい。あえて言えば、フィニッシュ時にちょっと音楽とズレたくらいか。FSは方向性が全く違うプログラムで、肌の美しさに合わせた薄いブルーの衣装を着て、細くしなやかに滑った。演じ分けが出来るのは素晴らしいが、やはり電池切れとなり、2度転倒してしまった。2度目はシークエンス扱いとなり、次の3S+2Tがノーカウントへ。しかし、各要素への加点はFS上位3人を退けて、最も高いものとなった。この選手のプロトコルは、多少の要素難度差など無視できるのだと、加点の重要性を謳っているようにも見える。来季まずは体力作り、次にルッツの強化が課題か。カナダに拠点を移すそうだが、コーチを変えるのだろうか。往年の名選手も形無しだな。トゥ系ジャンプ着氷時のチェックとスパイラルが誰かを彷彿とさせるなと思ったら、村主選手とクワン選手のそれだった。参考にしたという事だしね。


キミー・マイズナー選手#4 SP(4)FS(3)】
今回珍しく?SPをミスなく滑ったが、FSではライサチェク選手同様、いつもの追い上げが今一つ。残念ながら台には上がれなかった。2A以外の要素の加点もあまり芳しくはない。PCSではTransitionも7点台に乗せ、トップ選手らしいスコアとなってきている。ここまでやってもメダルが手に入らないのは、1つに上位陣が強力すぎるのもあるが、滑りに魅力が薄いのも大きいように思う。セベスチェン選手の類似系というか・・・。繰り返しみたいという気に、あまりなれない。表彰台組と比べ存在感の薄いのも、今回はっきり出てしまったように思う。衣装を派手にするとか、もっと目立つようにした方がいいかも。まだどことなくJr.臭く、パワー押ししようとするので、何となく雑に見えるし。きっちり全米女王にもなっての参戦だったのに。来季について、「今(の女子シングル)はジャンプ中心なので、セカンド+3Loを目指す」という事だそうだ。魅力ある演技を追及して欲しいんだけどね。同国だけでなく他国選手と比較しても、すぐ一般社会に溶け込めそうな程人間ができてそうだが、フィギュアスケータとしては却ってそれが災いしてるのかも。所属FSCのあるデラウェア大学へ進学だそうで、ヒューズ選手共々、受験勉強との両立お疲れ様でした。


中野友加里選手#5 SP(7)FS(6)】
SPは最初の3Lz+2T他、何度かよろけたものの、何とか踏ん張ってPB更新へ。PB更新祭りだったため、残念ながら7位となった。手の平で扇子を表現する部分では、上体をなるべく揺らさない形に変え、より雰囲気が出るように。SpSqの最後のポーズもおねんねへ変更。それまでのはどうも「だ〜れっが殺したクッ○ロビン」といいたくなる、すごい違和感があったので良かった良かった。FSでも3A以外はまずまずだったため、総合5位に。SPからずっと笑顔を心がけ、硬くならずによい形となった。前季より1つでも順位を上げたかった所だが・・・。衣装は白い方が良かったと思う。全体的に見ると、昨季と比べ、結構ミスのあるのが気になる。とはいえ、PCSで7点台が出た事は喜ばしい。来季は何としてでも3Aの精度を上げ、最悪でもダウングレードを取られないようにしたい。今回のFSは少々幼い感じなので、20代のトップ選手に相応しいプロで。SPは今季大当たりだったので、来季これを上回るのは難しいかなぁ。


カロリーナ・コストナー選手#6 SP(3)FS(9)】
SPでの3Lz+3Tはまさに圧巻。縦へも横へも幅のあるジャンプで、加点で+3をつけてるジャッジまでいる。カメラワークさえよければ、もっと迫力ある映像になっていたかもしれない。完全復活か?と思いきや、FSでは2コケしてしまった(Deductionsは-1)。コンボが1つしかないし、全スピンでLv.の取りこぼしというのも頂けない。本来まだ相手ではないはずの、同国2番手と0.05しか違わないぞ。「日本に敬意を評して」と嬉しいコメント付きのプログラムだったのに。同い年の彼女を見ても、安藤選手の復活劇ってすごいのだなあと分かる。しかし、SP『カノン』は鍵盤の音とハイスピードのスケーティングが相乗効果を生み、本当に清清しいプログラムとなり見ていて気持ちよかった。選手の特性に合わせた、よい選曲だと思う。本人もかなり気に入っているらしい。来季イタリアは2枠。自国はマルケイ選手以外さっぱりだと思うので、怪我さえなければ、来季も世界選手権で見られるだろう。安定化、フリップ(好きなジャンプらしいけど)、そしてスピンが課題かな。ヴェルネル選手も見ているフスコーチの元、ドイツで練習か。
#ツーショットの写真もあるが、遠近感でおかしく感じる程ヴェルネル選手の顔が大きい・・・。本当に狭いなこの世界。


サラ・マイヤー選手#7 SP(9)FS(8)】
SPは黒の裏地が利いた衣装で登場。あまり緩急がないので、SPにしてはちょっと長く感じる。「あらあら!まあまあ!」で始まるFSでは1つ順位上げて、入賞入り。バックインから入るスパイラルでは、チェンジエッジも行い、少し工夫を入れている。あまり目立たないが、GPFにも出場し、今季よく伸びた選手の一人だった。来季もいつの間にか、どこかの試合で台に乗ってるかもしれない。基本的に地味という訳ではないが、いかんせん上位陣がアノ調子なので、影に隠れてしまいちょっと可愛そう。華はあるので、ダイナミックさが欲しいかな。この調子で欧州勢を引っ張れる存在になってくれたらいい。振付師はランビエール選手と同じ、スイス選手専門のグァダラマ女史。FSの衣装も肌の色にあってるし、ありがちな型でない華やかでいいものだと思う。というか、いつも衣装いいなこの選手は。ところで、経歴を調べると・・・何と全スイスで1999-2000年シーズン以降ずっと1位(出場してない年が2季あるようだが)!国内は敵なし。実際2007年全スイスでは1位のマイヤー選手が178.17であるのに対し、2位のハイム選手は113.92・・・。若手が育ってない!若く見えるが23才だし、バンクーバ辺りまで見かける事ができるでしょう。お母様はISU公認ジャッジだが、いずれは同じ道を辿るのだろうか。


スザンナ・ポイキオ選手#8 SP(10)FS(7)】
6.0システムから新採点システムへ、よく対応しているベテラン選手なんだけど、やっぱり地味!本人、衣装、プログラム、そしてコーチまで地味!特にFSのあのカーテン生地みたいな衣装は一体・・・。そして、何故わざわざ胴長に見せるようなスカート・・・。手数の多い選手なんだから、ちょっとテコ入れすれば、見栄えがガラっと変わるのに。プログラムも緩急がないから妙に長く感じるし。全体的に地味なせいか、年齢より老けて見えるのが、何より問題かと。Lv4.がFSでは1つもないが地味に頑張って、総合8位とぎりぎり入賞した。順位まで地味か。荒川プロタイプの、もっちりした良いスケーティングなのに、実にもったいない。しかしコルピ選手は、いつになったら彼女を越えるのだろうか。J Spo版はまだ見てないけど、少しは痩せたかな。ノルディックの結果を見ても、異常にエントリ数少ないし、北欧女性シングルもいい選手出てこない。えっ結果?1位ですよ。130点台だが。


エミリー・ヒューズ選手#9 SP(6)FS(13)】
多少体を絞っての登場。それでも、まだ太いせいか、演技まで重く見える。あの姉でさえ現役時代はスリムだったので、もう少しダイエットしましょう。顔付きを考えると、今ぐらいの方がチャーミングな気もするけど。髪型が良く似合っていて、FS最終Gでは、一番可愛かった(転倒時の野太い声には驚きだが)。さて、以外だが柔軟性はかなり高い。今の米選手の流行を行ったスタイルを持ち味とするが、もう1つ伸び悩んでいるという感じだろうか。SPでは健闘したが、FSでは何と転倒女王のシズニー選手より下で、総合順位では惜しくも入賞を逃した。課題はいろいろあるが、まずダイエットだ。厳しいだろうが、来季はマイズナー選手に、1勝できる所まで持って行きたい。しかし本当の問題は学業との両立かも。プリンストンやハーバードやエール大学などに合格した、エリート一家に恥じない、賢い子なんだよなあ。顔がペコちゃんなのに、コストナー選手を越える、170cmの身長というのも意外だし。来季世界選手権に出場できるかはもちろん、出場しようとするかも不明だ。


ロシアはいうに及ばず、欧州勢で強い選手が少ない。加えて北米の弱体化と、まさにアジア選手の天下でした。とはいえ、浅田選手とユナ選手は、女子選手が最も不安定となる17〜18歳の時期へ突入する。毎季最初から飛ばしているので、来季はあまり大きな変化はないかもしれないが、来々季辺り北米や順調に育ってきた欧州選手らも活躍し、また勢力図が変わるかもしれない。