宮崎駿作品に出てくる食事シーン 2


食べ物の絵、それ自体はどれも大してリアルには描かれていない。という事は、それ以外に原因がある事になる。共通点を挙げてみた。

  • かなりリアルな音を伴った調理や準備の過程描写がある
  • 卵や牛乳といった食材はもちろん、出来た料理も身近なものか簡単に想像できるものである(聞いたこともないような珍しい食材や高級食材だったり、変わった調理法で出来た料理でもない)
  • 容器も、家庭で日常使っていたりその辺の店でよく見かけるもの
  • 食事に対して飲み物もきちんと用意され、かつこれの準備描写がある
  • 年季の入った、(どちらかといえば)あまりキレイでない部屋や場所で食事している
  • キャラがオイシそうに、かつ気持ちよく食べる
  • それぞれが速いテンポで(キャラの動きとしてはテキパキと)実施される


これらの該当数が多いものは確実にオイシそうに見えるが、少なくとも1つ目にある「音」は必須と考える。梅の映像を見ただけで・・・といったパブロフの条件反射の作用に似た現象が、起きているのではないだろうか。


魔女の宅急便』で、おソノがキキを家に招いてインスタントコーヒーを出す場面がある。おソノはまずインスタントコーヒーの入ったビンの蓋を、カシャカシャッと回し開ける。次に銀のスプーンを使ってそのビンの内壁にコンッとぶつかる音を立てさせながら、すくった粉をサッサッとリズムよくマグカップに入れる。呼応するようにヤカンが湯気を出してピーと鳴ると、すぐにジョジョーッという音をたてながら先程のマグカップへお湯を注ぐのだ。そして間髪入れず、ジジの前にタンッとミルクを入れた平皿を置いてお茶の用意完了。普段から聞きなれた音や動作が何回か連続してあるため、意識しなくてもスムーズに経験した事のある味が記憶から引っ張られてくる。加えてキャラがダイニングなどありきたりの場所でオイシそうに食べるシーンも加わると、記憶にあるモノの中でも繰り返し食べた味の中から一番良かったものが、最終的に選択されて脳内で再現されるのだろう。ラムネ(ガム?)やドロップ飴のような市販の菓子も、容器を振ったときの音を知っているから、それだけで思い出してしまっている。
 逆に『崖の上のポニョ』でリサが作ったサンドイッチを引き合いに出すと、調理過程がそもそもないし食べている時にも音がない。なので、特別手抜きの絵でもないのにオイシそうには見えない。


飲み物の描写も多いが、中でもホットミルク、コーヒー、紅茶は多い(多分)。分けてもホットミルクの多用は珍しいかと。キャラがホっとする場面やそれを促す場面で使われているように思うが、真面目な話、トリプトファンという成分が多いため精神安定効果が実際にあったりする。知識として知らなくても、経験的にその飲み物による効果について、宮崎さんはご存知だったのかもしれない。